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特別受益に時効はある?ない? 生前贈与を持ち戻す民法のルール |
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2023年度税制改正大綱で、生前贈与した財産を相続税の対象に引き戻す「持ち戻し」の見直しが盛り込まれた。この持ち戻しは正式名称を「生前贈与加算」といい、相続税法で定められた税金のルールだ。
相続に関しては、実は民法にも持ち戻しのルールがある。「特別受益」といい、特定の相続人に対する生前贈与は公平でないため、贈与された分を遺産分割の対象に持ち戻すというものだ。例えば亡くなった父親の相続財産が2千万円あり、相続人が一郎と二郎の子2人だとすると、法定相続分に沿って分割すれば2人がそれぞれ1千万円を相続するのが公平にみえる。だが実は生前に一郎にだけ現金2千万円を贈与していたとすれば、トータルで引き継ぐ額は一郎3千万円、二郎1千万円となり、二郎からすれば不満が出て当然だ。
このようなケースで二郎が特別受益の存在を主張して認められると、一郎が受けた生前贈与2千万円は相続財産に繰り入れられる。トータル4千万円を公平に分ければ2千万円ずつで、一郎はすでに2千万円の生前贈与を受けているので、残りの2千万円はすべて二郎のものとなるわけだ。
民法と税法の両方に持ち戻しルールがあるが、何が違うかといえば「時効」の存在だ。税法の持ち戻しは現行で相続前3年、23年度税制改正で延長されても相続前7年の生前贈与に限られる。ところが一方の民法には時効がない。何十年前の贈与であろうとも、特別受益を主張した側がその存在を証明できれば、全額を相続財産に持ち戻して遺産分割を行う。この点が、民法と税法の大きな違いだ。
ここで少し法律に詳しい人なら、「2019年の民法改正で、特別受益には10年の時効が設けられたのではないか」と思うかもしれない。確かにそれは誤ってはいないが、正確ではない。19年の民法改正で時効が設けられたのは、あくまで「遺留分侵害額請求」の対象となる特別受益だけなのだ。
どういうことか。遺産分割協議の際に特別受益を主張するときは、何十年前の生前贈与であろうと持ち戻しの対象となる一方で、いったん遺産の配分が決まってしまい最低限の取り分を請求するときには、直近10年分の贈与しか対象にすることはできない。
具体的にどういうシチュエーションが該当するかというと、亡くなった父親が遺言で「特別受益の持ち戻し免除」の意思表示をしていたときなどが当てはまる。特別受益の持ち戻しは絶対ではなく、遺言で「持ち戻しをするな」と書いておけば行えない。だが遺言で持ち戻しの免除をしていても、相続人の最低限の権利である遺留分を侵害することはできないため、遺留分請求はできる。ただそれでも、持ち戻せるのは10年分に限るというわけだ。なかなかややこしいルールだが、覚えておいて損はないだろう。
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