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特別受益証明書への署名捺印は慎重になるべし 遺産隠しの可能性、あとから税負担も |
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誰かが亡くなったとき、相続人の誰かが生前に受けていた贈与は「特別受益」と呼ばれて、遺産に持ち戻して分割協議が行われる。例えば3人兄弟のうち長男だけが莫大な遺産の前渡しを受けていたら、残った遺産を法定相続分に従って3等分すると他の2人が大きく損をするというのが、特別受益の持ち戻し制度の主旨だ。
この特別受益がある長男は、相続の発生に伴い「特別受益証明書」を書くことができる。これは別名で相続分不存在証明書とも呼ばれ、「私は生前贈与で相応の財産をすでに受け取っているので、遺産は受け取りませんよ」という意思表示を行う書類だ。これを書いた相続人は遺産分割から外れ、遺産分割協議書への署名捺印も必要なくなる。
だが、面倒な遺産分割協議から外れるという目的だけのために特別受益証明書を書くことはやめたほうがいい。この証明書には様々な落とし穴があるからだ。
第一に、遺産分割協議へ参加できず、協議書にもサインしないということは、遺産の全容を知らされないままの可能性がある。他の相続人らが結託して「あなたはこれだけの生前贈与を受けたのだからもう十分でしょう」と言って証明書を書かせてくるケースでは、あなたの知らない遺産がまだ眠っていて、それをあなたに知らせないまま山分けしているかもしれない。
第二に、未成年の相続人を遺産分割から排除する狙いに利用される恐れがある。未成年が相続人となったとき、通常であれば親権者が代理人として遺産分割協議書に署名捺印をするが、親も相続人だと代理人になれないため、家庭裁判所に遺産分割協議書を提出して特別代理人の選定を受けなければならない。その際、未成年者に不利な協議書は認められないのだが、特別受益証明書を出していれば、特別代理人を選任することなく、未成年者に相続分を放棄させることができてしまう。
そして第三に、特別受益証明書は自らに相続分がないことの証明をしたに過ぎず、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け取らない「相続放棄」とは根本的に異なるものだ。つまり亡くなった人に後から借金が見つかれば、特別受益証明書によって遺産を1円も受け取っていなくても他の相続人と同様に法定相続分に従って借金を分割継承しなくてはいけない。協議によって相続人間で債務の負担割合を決めることは可能だが、これはあくまでも相続人の間での合意に過ぎないため、債権者には通らない。
特別受益証明書を書こうが書かまいが、実際に特別受益があるのなら遺産に持ち戻して分割を行うことに変わりはない。これまで挙げたような多くのリスクがあることを踏まえれば、証明書を書くのは、持ち戻しによって相続分がないことが明らかなときだけにしておくのが無難かもしれない。
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