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悪用防げぬ成年後見制度  意に沿わぬ財産移動も
   認知症の男性の成年後見を務めていたNPO法人が、男性の死後に自宅の所有権を取得していたことを、神戸新聞が報じた。後見人が後見の対象である本人から財産を受け取ることは違法ではないが、認知症で衰えた判断能力につけ込んだ疑念は否定できない。後見人による財産の横領といった不正事例は近年増え続けていて、信頼できるプロフェッショナルに財産の管理を委ねるという制度の理念そのものが揺らぎつつある。
 成年後見を受けていた男性は、自身の判断能力が衰えてきた2014年夏ごろに、ケアマネージャーへの相談を通じて神戸家裁に制度の利用を申し立てた。後見の種類は本人の判断能力によって後見、保佐、補助と分かれるが、神戸市のNPO法人はこのうち男性の補助人に選任され、以降家裁の認める代理権の範囲内で男性の後見を務めてきたという。
 しかし男性が17年2月になくなると、その半年後の8月に男性の自宅と土地の所有権がNPO法人に移転した。神戸新聞によれば、16年11月に法人の理事長が男性の入院先を訪問し、公証人とともに公正証書遺言を作成したという。所有権の移転は男性自身が作成した公正証書遺言によるものだが、判断能力の衰えた本人から後見の立場にある人や法人が財産を受け取ることに対して、「立場の悪用」として批判する声も出ているようだ。
 介護や財産管理を行ってくれた相手に対して遺産を相続させるというのは現実にあり得る話で、成年後見人である個人や法人に対して財産を譲ることは違法ではない。しかし判断能力の衰えた本人を支援するという成年後見制度の性質上、後見人が自らの利益になるよう本人を誘導するリスクは否定できないところだ。
 認知症患者を誘導して後見人が自分の思うように財産を使うというケースは増えているようで、大阪家裁は今年3月、後見人に利用者本人の意思を尊重するよう求めるガイドラインを策定した。財産を動かす上では本人の希望や価値観を最大限考慮し、また本人の意思決定を助けるあらゆる方法が尽くされていないと意思決定ができないとはみなさないとする内容で、いわば本人の判断能力の衰えを理由に財産を勝手に動かす後見人をけん制するものだ。
 また高齢社会会に伴い成年後見制度の利用者が増え続けるなかで、後見人の横領や不正も増えつつある。今年4月には公益社団法人社会福祉士会に所属する個人が、成年後見を担当していた女性の遺産を受け取ったとして戒告処分を受けている。家裁に選任されて成年後見人の不正を監視する「後見監督人」の数も年々増え続けているが、対応が後手に回っている印象は否めない。
 今後、人口の10人に1人が認知症患者になるという「大認知症時代」がやってくるなかで、成年後見制度の利用はさらに増加していくことが予想されているが、同時に後見人の横領や同意のない財産移動を防ぐ手立てを講じていくことも必須となっていきそうだ。